俺さ、ぐっちょぐちょの体が好きなんだよ。親友だと思っていた静也の言葉は酷く強烈だった。
俺さ、小さい頃、あれは覚えてる、五歳ん時だな。事故に会ったんだよ、つっても俺はかすり傷ぐらいだったんだけど。目の前で母ちゃんが暴走車に轢かれて、体吹っ飛んでさ。血と内臓が交じり合ってぐちゃぐちゃで、体の色は肌色じゃなくい赤色になって。顔なんて割れたガラスみたいにパーツばらばらでさ。詳しいこと知らされなかったけど、轢いた奴元々人殺すつもりで運転してたんじゃねぇかなあ、スピードとか尋常じゃなかったし、避ける素振りもなかったし。それからさ、グロいのとか好きんなっちゃって。好きなやつとかがぐっちゃぐちゃになったらすげえかわいいだろうな、とか思うんだよ。あー、でもかわいいっつうよりは欲求が叶うっつうか……俺がここまでしたんだぜっていうか。独占欲? みたいな感じかも。
そんなことを告げるあいつに曖昧な笑みを向けて、今から夕飯だから、なんて午後二時に言った俺。あいつはそっか、と小さく言って素直に帰っていった。
それから数年、同窓会でそんな出来事も忘れて隣に座って。
静也はよお、カノジョとかいんの?
静也はにこり、と笑った。その時薄っすらと、こいつが以前言っていたことを思い出して、俺もにこり、と必死に笑った。ああこいつは、好きなやつがいちゃ駄目なんだ。
「し、静也、やめ、やめて」
「大丈夫、痛くねぇよ」
ぎらりと光る大きな刃物。ナイフなのか包丁なのかノコギリなのかも分からない。ただにこり、と整った笑みを浮かべる静也がゆっくりゆっくりと近づいてきて、俺の脳は興奮を忘れてくれない。
「ごめん」
小さくそう聞こえた気がした。
■愛は正義
雨が降つてゐるのです。ぼつぼつ、ぼつぼつと。
けれども貴方の視線は私に定められてをり搖るぎが無く、そんな眞つ直ぐでい視線に私はたゞゝゞ戸惑ふことしか出來ないのでした。それが貴方の癖なのだと告げた時、我國では當然のことだと仰つてをられたことが頭を過ぎります。
「雨が、降つてをりますよ」
「どほりで、さむいはずですね」
片言の日本語は、さらに不安をかき立てるのです。貴方の大きく逞しい體、の瞳、淡い光を持つ金の髮。全て異色で、私には無い物でした。その大きな手が、私の頰を包みます。貴方のの瞳と、私の茶の瞳が重なる。違ふ體溫が交じり合ひ、私の罪惡感を產んで行く。
「嫌です、嫌です」
「まこと」
貴方の大きな咽佛がひくりと搖れ、私の名前を呼ぶのです。縋るやうに、有無を言はせぬやうに、悲し氣に。そしてまた私は、の世界に引きこまれて行く。一時のまどろみ、胡蝶が舞ふ夢の中、一筋の淚だけが眞實に光る。言葉も、表情も、全てが無と化し、信じられるのは小さく落とされるか細い言葉。穢れた私の體を慰めるやうに、さらに穢していくやうに、貴方は私に觸れ、私を抱き締めます。縛りつけられた想ひは雨に似て、たゞゝゞ私達を冷やすのみ。暖かみなど缺片も存在しないのに、今日も貴方と私は結び合ふ。
嗚呼、どうか斷罪を。
望めるのならばその大きく逞しい腕で、一瞬の愛を下さいませ。そしていつか來る終焉が、深い深い夢の中で訪れますやうに。
■の胡蝶
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