涙なんていらないと思った。だって泣いたら彼は傷ついて、傷つく彼を見たら俺も傷ついてしまう、そんな感じで一つもいいところなんてない。
 「優希」
 「何?」
 「寒く無い?」
 「大丈夫」
 嗚呼、どうして俺は。彼はそう、と微笑むと、布団を鼻まで上げた。薄っぺらいソレは夏用の所謂タオルケットで、三月に使う代物ではないことは明白だった。どちらかというと寒いのは充だ。なのに、寒いながらも幾分かマシに思えるぼろい毛布に体を包ませる俺を、彼は心配する。そんな充が愛しくて愛しくて、伸ばしてはいけない手を今日も伸ばす。
 充がぴくりと反応する。薄っすらと細くされた目は口が見えないから、笑っているのか怒っているのか睨んでいるのか一見分からないけれど、充の性格を考えれば分かる。
 「充」
 大好きだたまらない彼に触れているのに、確かな繋がりを感じているのに、寂しいのは、
 「充」
 名前を呼んでも、充は何も言わない。ただ視線を横に逸らし、ただひたすら、ただひたすら、耐えている。
 「充、みつる、みつる」
 あ、ふ。充が吐息にも似た、声をひっそりと漏らす。それは夜の易しい冷たさに溶けて、俺に快感を与えてはくれない。密かに充が眉を顰めることに、俺の心臓は裂けるのかと思えるほどに痛く鳴る。
 「優希、俺は、俺は」
 充。俺は充を。
 充が俺の手首を掴んで、勢いよく引き離す。
 「優希」
 どうしてこんなにも。どうしてこんなにも、俺たちは寂しい。
 「好きだよ」
 どうして俺は、泣いているのか。

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