ぶかぶかと浮かぶ私を見ているのは、彼。
皆が皆私のことをポジティプだと言う。お父さんがリストラになった時も、お母さんが癌になった時も、姉と喧嘩した時も、妹がいじめにあっていた時も、特別悲しかったり怒りが沸いてきたり悔しかったりはしなかった。ただ、ああそうなんだ、って思っただけ。それなのに、皆はすごいね、ポジティブだね、強いんだね、って言う。何でだろう。悲しくないのも怒らないのも悔しくないのも、ただ家族が大切じゃないからってだけなのに。
「そんなところに居たら、死んじゃうよ」
「いいのよ。死にたいから」
「どうして?」
どうして、なんて。ただ、皆がそう言うから、精一杯悩んでいたふりをしてあげようと思っただけだ。死ねば、つからったんだろう、って思ってもらえるのだから。皆は私に悲しがってほしいのだ。どうしてそこまで強いの? 何かに悩んでない? 悲しいね――。どうして私がどうでもいいことの心配などしなくてはいけないのだろうか。
「死にたいと思うのは罪なの?」
「僕の中では罪」
「じゃあ死にたいって思う罪と、人を死に追い込む罪、どっちが重いのかしら」
くつくつくつ、と喉を鳴らして笑う。彼は私に影を差し込みながら、重たい溜息をついた。
「僕は君に死なせるために海に連れてきたわけじゃないんだけどね」
「私、海になりたかったからいいのよ」
「そういう問題じゃないんだけど」
「私はもう止めない」
「止めてよ」
「止めない」
「止めて」
「いーや」
「……まったく。しょうがないなあ」
彼はいつだって、結局はしょうがないで片付けてくれる。彼の頼りがいのある太い腕が、私の首を。
じゃぽん。盛大に鈍い水の音がすれば、私の呼吸は苦しくなる。大きな泡が、口から抜けた。ぼこぼこぼこぼこ。水中で目が合った貴方に、盛大の愛を。それと、少しの憎しみを。既に、私の中では自分の生命だってどうでもいい対象なのだ。
いつかまたどこかで出会えるだろうか。そう、声にならない声をあげた。めごめごと変な音が響くだけで、彼にも自分にすらも届かなかった。
さようならは言わない。だって、未だ私たちは繋がっているから。
海特有の、辛い味が口に染み込む。呼吸をすれば、沢山の水が鼻から入ってきた。小さいころにプールで体験した、淡い記憶が蘇る。ああ、あの頃は、もう。もう帰ってこないんだよね。水中で、左手の薬指につく指輪がきらりと光る。
もう、あなたとはいっしょうであいたくない。そう、つぶやくと、かれはわらったきがした。めごめご。
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