普通なのか普通じゃないのかなんて考えても無駄だってことくらいは分かっているし、そんな常識に嵌めたって意味がない。それでもきっと、僕は普通を求めていたのだろうと思う。だってそれが、世の中で一番望ましいことなんだから。

 密かな夜の営みは、子供心に禁忌の香りを感じ取っていた。息を潜めるお父さんの首に顔をすりつければ、大きな手が頭を覆う。それが悪いものだと知る由もなくて、ただ隠れて摘み食いをするような、そんなスリルだけが胸に溢れた。お父さんがいれば一緒に怒られても怖くないだろうと思っていたし、大好きなお父さんとの悪戯はひたすらに甘かった。
 お父さんの温い指先が肌を這う度にこそがしさに身を揺らした。お父さんの舌が様々なところをつつく度に、刺すような、それとも染みるような気持ち良さが体中に響いた。お父さんの煙草の香りが、その時間だけはいやに鼻についた。
 突然の開けられようとしたドアノブの音は、今も耳から離れない。鍵が守った部屋の禁忌は、けれども謎の不信感をお母さんに背負わせた。
 きっとちぐはぐな返事をしたんだろうと思うけど、それからその行為の頻度は一気に減った。お父さんと寝ることはあったけど、そろそろ一人で寝られるようにと宛がわれた小さなベッドと小さなお部屋が僕のお城になったし、お母さんが訪れない時間に行為に及ぼうとしても、僕は既に夢の中なのだ。だからお父さんが我慢できなくなって、夕方にお母さんが買い物で出掛けた時に行為に及んだこともしょうがないと思う。与えられたお部屋での遊びに満足していた僕を無理矢理遊びに誘うガキ大将の如く、お父さんはベッドに僕を押しやった。

 お父さんの気持ちも、お母さんの気持ちも理解できない僕は、悪い子なのかな。

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