彼は人間だったのだ。全てを嘲笑うかのように赦して、全てに絶望を背負わせる。彼がすること為すことすべてが誰かの心に届くのだ。許された罪。例えるならば手の届く距離にいる神といったところだろうか。しかし、彼は人間だったのだ。知らないものに恐れ慄き、それ以上に熱望する。知らないものを知ろうとする欲求は収まることを知らない。彼はそれを、知る権力があった。赦された罪。彼は私の知らない誰かに心から焦がれ、無性に手を伸ばしたくなる欲求に駆られるのだろうか。
 手は、二度と彼の白く柔らかい肌に触れることはない。耳は、一時でも彼の言葉を聴き入れることはない。彼と触れていたところ全てが、熱を持って熱が覚める。いやだと嘆いたとて、彼はそれすらも赦してしまうのだ。どうせなら痛々しいまでに叱咤して、欠片でも執着を見せてくれたらいいのに。嗚呼、彼も、今ではこの恋慕の心情を分かってしまっているのだろうか。底の見えない青木色の瞳は、切なく熱い色を映しているのだろうか。――そしてそんな彼すらも愛しいと思える私は、きっと幸せになれない。しかし彼を忘れることが幸せだと言うのならば、私はそれを、望まないのだろう。否、忘れることなんてできない。彼の言葉一つ一つが桃色で、彼の行動一つ一つが橙色、彼の視線すべてが黒色。
 例えば私の、まるで神に縋り付くような恋慕が彼を苦しめていたのだとしたら、それならば私は少しは救われるような気がする。彼が神々しかったことに変わりはなく、そしてそれは私の虚しい失恋を正当化してくる物だから。

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