空が枯れてる。ぽつりと呟いた言葉は優一郎さんには届かなかったようで、返事はない。
 「憂」
 優一郎さんの声が好きだ。名前を呼ばれると、優一郎さんの膝の上で眠ってしまいたくなる。歳を経て、経験や思いをすべてつめこんだような、ふんわりとしていて、けれど落ち着きのあるあの声が、好きだ。
 「寝てしまったのかい?」
 ベッドでシーツに包まれた僕の頬にかかる髪を人差し指で払い、キスをする。ぱちりと瞳を開ければ決して端正とは言えない優一郎さんの顔が近くに見えた。きゅう、と優一郎さんの耳を掴むと、優一郎さんは優しく笑って、僕の手を握る。ゆっくりと耳から手を離すと、優一郎さんは僕の手を固く握った。
 「ゆーいちろーさん」
 「優一郎、だよ、憂」
 やんわりと注意する優一郎さんの声が好きで、そしてちゃんと話を聞いてくれてるのが嬉しくて、またゆーいちろーさんと呼ぶ。またまた。またまたまた。ゆーいちろーさん、ゆーいちろーさん。きゃはきゃはと笑うと、優一郎さんはいつもの柔らかい笑みを浮かべたまま僕を抱えるように掴んで、ふっかふかの一人がけのソファに腰を下ろす。僕は優一郎さんの膝に座るようになって、シーツ越しに優一郎さんに抱きつく。この暑くも寒くもない体温で、裸のまま優一郎さんと居るのがすごく好き。何とも言えない時間だけが過ぎていく感覚が好き。優一郎さんが動くとシーツで擦れて気持ちよくて体がぴくりと跳ねる。そうするとと優一郎さんはまだ物足りないのか、って少しだけ意地悪く笑う。
 「ケーキでも頼むか」
 「うん」
 優一郎さんは手近にあった携帯で誰かに言葉も少なくただ一言「ケーキをほにゃらら」と言ったたけで携帯を切ってしまった。もぞもぞと優一郎さんに体を押し付けていたら、ぎゅう、と痛いくらいに抱きしめてくれた。
 泉さん、庄蔵さん、薫くん、金治さん、志貴、皆みんなぎゅうってしてくれるけれど、やっぱり一番優しいのは優一郎さんだ。そんな優しい優一郎さんがすごく好きだ。でもこれが恋なのか愛なのか、僕にはわからない。優一郎さんはいつも僕に大好きだよって言うけど、好きと大好きの違いも分からない僕はやっぱり優一郎さんには不釣合いなんじゃないだろうか。優一郎さんはどうして僕を選んだのか、どうして僕とえっちなことをするのか、分かんないんだ。でも僕はきっと、皆から愛される幸せ者だと思う。
 「憂」
 優一郎さんがぎゅうって抱きしめたまま頭を撫でる。一人がけソファの窮屈さが今は僕と優一郎さんを密着させてくれる。優一郎さんの体温が、すごくすごく、伝わってくるよ。
 「憂」
 僕の体と優一郎さんの体は大きさが全然違って、僕なんて優一郎さんの後ろに回れば簡単に隠れられそうだ。そんな僕を簡単に抱えて、ぎゅう、としてくれる優一郎さんが僕は好きだ。
 「寝て、しまったのかい?」
 優一郎さんがテレビをつけたのを、僕は少し残った思考の片隅で確認した。

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