「俺おかしいんだ」
 豪勢な庭を眺めながら、彼は言う。その青木色の瞳が捉えているのが私ではなくただ豪華なだけの庭というのが悔しくて、名前を呼ぶ。呼んでも彼はこちらを向いてくれなくて、無性にいらつくのだ。
 「何でだろう」
 彼の端正な顔に、温度のない笑みが浮かぶ。確かにそれは美しいのに、何故だろうか、恐ろしさを感じるのだ。恐ろしくなって、私は彼に手を伸ばす。彼の、白く柔らかい頬に、私の歳を感じさせる骨っぽい手が触れる。彼は黙って私に触られていた。一度ぴくりと目尻を動かしたが、視線は真っ直ぐ庭に向かっている。
 「好きなやつがいるんだ」
 色が失われていく気がした。彼を繋ぎ止められないことは知りながら、――否、繋ぎ止めようともしなかった、私。彼とはいわば体だけで繋がっていて、心では掠りもしていない。ただ私が卑しい恋心を彼に押しつけているだけで。しかし、それでも良かったのだ。彼の温度のない瞳が何もかもを捉えないのなら、私が映らないのと一緒で私以外の何者も映らないのなら、それで良かった。そんな彼が魅力的だったから。
 「すっげえ細くて、すっげえ不思議で、すっげえ死にそうなんだ」
 それは、君もだ。ぽつりと呟いた言葉に、彼はそう? と微笑んだだけで特に不思議がる様子もない。それなりに自分が周りとは「違う」ことを自覚しているのだろう、当然だ、彼は容姿も中身も周りとは違う。そしてそれに、私はどうしようもなく惹かれるのだ。
 「梓」
 彼も、というのか。彼も私と同じように、他人と違う者に惹かれるのだろうか。触れていた手を下へと下げて行く。彼の露わになっている白い胸板に触れる。
 「誰とも交わらないって、思ってた」
 彼がひっそりと目を瞑る。その行動すら人とは違うものに見えて、私はそんな彼が一層好きになる。彼が知っている、卑しい私を。一回り以上も歳の離れた、美麗な彼にだらしなく涎を垂らす、汚らしい私を。そして彼は残酷にも、それを赦すのだ、無関心という最高に温度のない、感情で。

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