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高校二年生。まだ若造の部類に余裕で入る俺でも、それなりに酸いも甘いも味わってきたつもりだ。勿論、酸いには恋愛関係の出来事も含まれている。……しかし、一昨日の夕方、今までの酸いには確実に含まれていない――というより、出来ることなら含むことなく記憶の彼方に放ってなかったことにしたい出来事が起こった。そしてそれは、今現在脳内のほとんどを占めて俺を苦しめている。
「……馬鹿みたいだ」
あんなに、嫌っている対象が、俺にキ、キスをした。嫌がらせなのか、予行練習なのか(多分もう何度も経験しているだろうけれど)、それとも外国だと間違えているのだろうかは謎であるけれど、俺を苦しめていることは事実だ。
「美徳? どうかした?」
「……いや、何でもない。ありがと」
親友の達彦に軽く礼を告げる。今では、同情だとしても優しくされるのは嬉しい。何だかぽろりと相談してしまいそうになるけれど。しかしここで言ってしまえば、変態兄弟のレッテルがスーパーの半額シール並みの速さで貼られてしまう。そしてきっと、この生真面目な友人はおおいに悩むだろう。無闇に自分を崖っぷちに追い込むのは良くない。
「死んじゃえばいいのになあ」
この無意識の発言で、唯一無二の親友が三日三晩悩んだのを、俺は知ることはなかった。
一昨日から今日まで、いつも以上に兄貴を避けて、いつも以上に兄貴を憎んだ。真意が分からないキスも、少し俺を気にしている様子の兄貴も、あんなことがあったのにぎしぎしと軋みながらもいつも通り進んでいく毎日も、全部全部俺を苛立たせた。
「美徳」
あの忌々しい事件から四日後、初めて兄貴が話し掛けてきた。申し訳なさそうな様子に少しだけ満足感が生まれる。
「……何」
「話、聞いてくれるか?」
「聞くも何も、あんたには言わなきゃいけないことがあるだろ」
「そうだな……ごめん」
しょんぼり、という表現が似合う。何だか兄貴はいつも俺に対して腰が低いが、何か今日は腰が低いというよりは後ろめたさが強い気がした。当たり前だけど。
「あのな、」
居間はしいんとしていて、俺たちの声だけが充満している。空気一つ一つに、兄貴の低すぎない、それでいて決して高くない声が乗って耳に届く。
「遊びじゃない」
「……何が」
「俺がしたこと」
「は?……え、は?」
「勿論悪かったって思ってるし、自分でも何であんなことしたんだって心から謎だけどそれは美徳だったからしたわけで遊びだったわけじゃ」
「ちょっと待てよ、てことはその、……」
「美徳が好きだ」
あっけらかんな顔を、していたと思う。
兄貴は当然だと言わんばかりに、けれどその言葉には嫌に真っ直ぐで、揺るぎがなかった。もっと恥じらいとか、あるべきなんじゃないのか告白って。いやそもそも兄弟に恋愛感情を抱くのが間違いであって。
「気持ち悪い、だろ、そんなの」
こんなこと、言ってはいけない。言ってはいけないんだ。言ったらきっと憎らしいあいつは、とても悲しむ顔をするのに。
「……そうだよな、ごめんな?」
悲しい顔をするのに、俺は言うんだ。
「兄貴なんて、嫌いだ」
兄貴の端正な顔に悲しみの色が浮かぶのを、俺は嬉しく思うはずなのに、俺は、俺は、
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