俺は兄貴が嫌いだ。そりゃあもうこの世で2番目に嫌いだ。死んでほしいと思っているし、できればものすごく苦しんで涙を流して死んでほしいとまで思っている。
 兄貴はいわば完璧な人物で、学校の生徒副会長を務めながらも成績は常に学年上位、運動神経も申し分なし、おまけに顔立ちも整っていると来る。唯一難をつけるとすると意地悪な性格なのだが、それも周りからすると明るくてユーモアが溢れている、と都合良く変換されるらしい。すごく不満だ。10数年不本意ながらも一緒に過ごしている俺としては、直射日光に照らされ続けドロドロになった飴玉を靴に山盛りにされたり、雑草を根っこ土つきでお気に入りのバッグに山盛りにされたり、靴紐を1週間ほどずっと固結びされたり、バレンタインにはバッキバキに粉砕されたチョコが自分の部屋の机に散らばっていたり、小さいシャー芯が筆箱に幾つも入っていたりと様々な被害を受けていて、とてもじゃないが明るくてユーモアが溢れているで片付けられる問題ではない。そして一番の問題が、兄貴と何かと比べられることである。比べられるというと語弊があるかもしれない。完璧な兄を持つ俺の人生には、何かと兄の話題がついて回った。同級生からは兄へのラブレターを手渡され、担任と話す機会があると話の端々で兄貴の話が飛び出す。友達は兄貴のことを恍惚と話す始末だ。それで兄貴を恨むのは筋違いだとどこかで理解しているが、兄貴が元凶なのは変わりがない。
 兄貴がいると、自分がいなくなってしまう気がして。どろどろとした感情が俺を塗り替えるのは易かった。
 「なあ、美徳」
 兄貴なんて、嫌いだ。

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