「……ボス。この子が保護したって少年かい?」
「ああ、そうだフィオーレ」
「――いい目をしているね。この世界に入るのかい?」
「多分、な。既に関わってしまったから」
「ふうん。……ねえボス。僕が教育してもいい?」
「ルイ。もっとちゃんと握って。落ち着いて撃つんだよ」
「……うるさいな。ちゃんと当たってるでしょ」
「だーめ。弾の消費量が少ないほうが費用削減になるでしょうが。それとも、バンバン無駄に撃って格好悪い所見せるのがルイの好みかな?」
「……弾頂戴」
「今日はもうおしまい。肩壊れちゃうよ」
「そんなことない!」
「ルイ」
フィオーレは微笑んで、俺の頭を優しく撫でる。自分を大事にしろ。そう言うようで、俺はこうされるといつも言葉を続けることが出来なかった。
役に立ちたくて、たくさんたくさん学ぼうとして、ひたすら頑張っていた。
フィオーレに近づきたくて。彼の柔らかくて頼りがいのある人になりたくて。
そんな彼が激情のままに生きたことを、俺は一生忘れられないだろう。
「ルイ、随分と大きくなったね。今は……確か15だったっけ?」
「そのくらい覚えといてよ。もうぼけたの?」
「……ルイ、ごめん僕ガラスのハートだからもうちょっと手加減して……」
ぽかぽかとした陽気の中、繰り広げるのはほとんど恒例となった師弟の漫才。どちらも銃の手入れをしているから、何だか恐ろしい光景ではあるけれど。
ツンとしたオイルの香りも、使い古された道具ももう慣れたものだった。
「そろそろ誕生日でしょう、ルイ」
オイルの香りが広がる部屋にぽつりと落ちた凛とした言葉に、フィオーレは見せたことのない、いつもと限りなく似た、けれど少しだけ違う柔らかな笑みを浮かべる。
「ユナ」
「何がいいですかねえ、時計とかどうでしょう」
「別にいいよ。そんなの邪魔なだけだし」
「あれ、時間を知るのは大事なことだよ? 色々な場面で役立つ」
「……全く」
その二人が揃うと、何だか両親みたいになるのが少し嫌だった。
ユナとフィオーレが付き合っているというのは皆知っていた。近々結婚する予定だということも、俺はフィオーレから聞いた。
ユナといる時だけ見せるフィオーレの表情も、フィオーレと話す時のユナの幸せそうな声も、二人が良い仲だと主張するかのように日々強くなっていった。
教育してくれるフィオーレも、小さい頃から面倒を見てくれたユナも、どっちも大事だった。その二人が仲が良いだなんてすごく嬉しいことだけど。
心が静かにチリチリと焼ける感覚は、俺にとって不可解なものだった。
不可解な感情はいらないものだと必死に押し隠して、ひたすら二人の傍で喜び続けた。時折フィオーレが一瞬困ったように俺に微笑む度、ばれてはいないかと少しだけヒヤリとしたけれど。フィオーレは何も言わずに会話に戻るのだけれど、俺はずっとざわざわと心が騒いだ。聡明で敏いフィオーレは、俺の感情に気付いていてもおかしくはない、と、夜のベッドでそっと考えた。俺はその感情を思い切り無視し続けた。それに答えてくれるかのように、フィオーレは何も言わずにユナとの仲を良好に保ち続けた。
その感情が嫉妬なのだと、気付いたのはユナとフィオーレが結婚を決めた日だった。
そして、嫉妬がフィオーレが俺に最後に教えてくれたことだった。
君と僕
あとがき
過去編唐突にスタート。
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